教養論文で求められる、本物の「問題解決力」

公務員としての「問題解決力」とはなにか?

公務員としての「問題解決力」を簡単に表現すれば、

「ある社会問題を解決する施策を考え出せる力」

ということができると思います。

そしてこの「問題解決力」こそ、公務員試験の教養論文で求められる最も重要な力です。

少子高齢化や国際化などさまざまな場面で表面化する社会問題。それを解決することが、公務員の仕事であることに疑いはありません。あらゆる公的機関がそういった能力を持っている人を採用したいと言っても過言ではありません。

そのために教養論文を課して、任官志望者である受験生に「問題解決力」があるかどうかを試しているわけです。

「問題解決力」を身につけるには?

さて、

で取り上げた特別区の過去問を思い出してみてください。

前回の過去問では、「女性の活躍推進のための施策」が問われています。いうまでもなく、この「女性の活躍推進のための施策」は多岐にわたるので、それらのいくつかを知っていれば、なんとなく論文を書くことはできます。

ほとんど思考を巡らすことなく「女性の活躍推進のためってことは、とにかく待機児童対策だな」などと決めて、「保育園を増やす」などの施策を書くことはできるということです。

しかし、この過去問をよく読むと、「働く場での男女間格差の問題」「家庭生活における役割の偏重」があるため「女性の意欲や能力が十分に発揮でき」ない、との指摘がなされています。

これをしっかり捉えていれば、たとえ保育園を増やしても「働く場での男女間格差の問題」を直接解決することにはならず、「家庭生活における役割の偏重」を是正することにもちょっと遠い、ということが分かるはずなのです。

それなのに、そんなことには目もくれず、とにかく自分が暗記した施策を書いているのですから、本当に問題文が求めている施策=本当の解決策にはなっていないという、見事に「問題文からズレた答案」が完成してしまうのです。

このように「問題文からズレた答案」を書いてしまうのはなぜでしょうか?

それは、「ある社会問題を解決する施策を考え出せる力」つまり「問題解決力」がまだ身についていないからです。

ではどうすれば、本物の「問題解決力」を身につけることができるのでしょうか?

難しいことではありません。ひとくちに言えば、「日常的な訓練」で身につけることができます。

ここでは、その「日常的な訓練」を3段階に分けてステップアップしていく方法を紹介します。

【第1段階】
まず、テレビや新聞、ネットなどで行政が実施する施策を見聞きしたら、「なぜ、そういう施策を実施するのだろう?」と考えてみてください。

それらの施策は、「何らかの社会問題」を解決するために実施されています。その「何らかの社会問題」とはなにか。それを施策から逆算して、自分で考える訓練をするのです。

ここで大切なのは、「少子化問題」というような抽象的な社会問題を考えるだけではなく、「Who(だれが)、When(いつ)、Where(どこで)、What(なにを)、Why(なぜ)、How(どのように)」という5W1H的なスタンスで、できるだけリアルな場面での「具体的な社会問題」を考えることです。

そして自分なりの「具体的な社会問題」を考えたら、それが正しいかどうか検証しましょう。見聞きした施策を実施する自治体のHPなどを調べ、自分なりの「具体的な社会問題」と行政が解決しようとしている「具体的な社会問題」が一致しているかどうかを確認するのです。

そこでもし自分がズレているのであれば、どのようにズレているのか、なぜズレているのかを考えて修正します。このことにより、そのズレがだんだん少なくなって、施策から社会問題を考える回路が正確に作動するようになっていきます。

【第2段階】
第1段階の思考を日常的に繰り返していると、次第に社会問題に気づきやすくなってきます。そうしたら今度は、自分が気づいた社会問題について、それを解決する施策を考えてみてください。

例えば、ある自治体で急速に進行している過疎化の問題について、自分だったらどういう施策で解決するだろうかという思考を巡らせるのです。そしてここでも自治体のHPなどで施策を調べ、自身の考えた施策が、行政で実際に検討・実行されているかどうかを確認してください。

ここで2つの段階をあらためて見ると、

【第1段階】施策→社会問題

【第2段階】社会問題→施策

というベクトルでの思考であるのがおわかりいただけると思います。

本来は、「まず何らかの社会問題を認識して、それを解決するために施策を考えて実行する」という流れですから、【第2段階】が「順回転」のプロセスであり、【第1段階】は「逆回転」のプロセスです。つまり、「逆回転」から「順回転」への移行という形で思考訓練を進めていきます。

「問題解決力」を鍛える過程では、【第1段階】の施策→社会問題という形で逆算して考えるほうが、思考が明確になります。どちらの段階もある程度スムーズできるようになったら、2つの段階を日常的に行き来して繰り返してください。

「逆回転」と「順回転」とを相互に繰り返すことで、

施策←→社会問題

の相互関係を考える思考回路が一層なめらかになってきます。

【第3段階】
第3段階では、ある社会問題について「自由に」施策を考えるのではなく、いくつかの「制限」や「条件」を設定して施策を考えていきます。社会状況による制限や、自治体か国かといった立場による条件など、自ら設定した「制限」や「条件」です。その枠組みの中で有効と思われる施策を考え出す訓練です。

前回の過去問でも、『女性の活躍推進を実現する』ための施策を考える上で、「働く場での男女間格差の問題」「家庭生活における役割の偏重」の「2つの障壁を無くすため」の施策という「社会的な制限」がかかっています。

また、問題文後半にある「特別区の職員として」は、特別区という自治体の職員として実施すべき施策という「立場による条件」が設定されています。その条件をしっかり確認し、その枠の中で実施できる施策を考え出していくのです。

解決力は日常で身につけることができる

このように、自由勝手にではなく制限や条件の枠内で考える訓練をしていくと、施策を考え出す過程で、野球のピッチャーで言う「制球力」が身についてきます。

ある社会問題とそれに対する施策を見聞きしたとき、「その施策が本当にその社会問題を解決することができるのか」と考えることができ、具体的で現実的な施策を考え出す力をコントロールすることができるのです。

自分勝手な「ボール球」ではなく、いつでも「ストライクゾーン」に施策を投げられるようになったら、さまざまな社会問題を考えることがきっと楽しくなります。

その「ストライクゾーン」にある施策には、ど真ん中のストレートもあれば、コーナーを突く変化球もあるでしょう。それらひとつひとつの施策を、自分の思ったように投げ込むことができるようになるのです。

これこそが、本物の「問題解決力」です。

教養論文の対策に悩んでいる方は多いと思います。すぐにでも典型的な答案構成の暗記に走りたいという気持ちも痛いほどわかります。

しかし、本試験の問題文は千差万別です。

何の社会問題についてどんな制限や条件を付けて施策を聞いてくるかは、試験会場で問題文を読むまでわかりません。闇雲に答案構成を覚えても、適切な答案を書くことができないことはおわかりいただけると思います。

教養論文の勉強は、机の上だけのものではありません。これからの日常の中で実践的に身につけた力こそ、真の「答案力」です。

目指すべき到達点は、日々ニュースを見ていて、実際に国や自治体が実施する施策を「批判的に」にみることができるレベルです。そこまでくれば、教養論文はおろか、面接でも怖いものはありません。